社内にIT担当がいない会社が、システム開発の発注で自社に残す仕事と任せる仕事

社内にIT担当がいない会社が、システム開発の発注で自社に残す仕事と任せる仕事

はじめに

社内にIT担当がいない会社が、システム開発を外部に発注するとき、手が止まる場所はだいたい決まっている。

自社で何を持ち、業者に何を任せるのかが決められないのである。

筆者は富山でシステム開発の受託とDX助言を行っている。

発注を受ける側の立場なので、「もっと任せてよい」と書けば筆者の利益に近づく。

その点を先に断ったうえで、人が足りない前提で分担線を引く考え方を整理する。

結論から述べる。

分担線は、作る作業と作らない作業のあいだではなく、「決める仕事」と「手を動かす仕事」のあいだに引くのがよい。

決める仕事は担当者が一人もいなくても自社に残せるが、手を動かす仕事は担当者がいなければ続かないからである。

中小企業はIT人材の不足をどこまで課題と感じているのか

中小機構が2025年12月に実施した調査では、DXの取組みの課題として「ITに関わる人材が足りない」を挙げた企業は、全国の中小企業者等1,000社(複数回答)のうち28.3%だった1。

同じ設問で「予算の確保が難しい」は26.0%、「DX推進に関わる人材が足りない」は25.6%である。

従業員21人以上の企業(n=470)に絞ると、「ITに関わる人材が足りない」は36.4%、「DX推進に関わる人材が足りない」は34.7%、「予算の確保が難しい」は23.6%だった。

全体と比べて、21人以上のほうが人材不足を挙げる割合は高く、予算よりも人材が上位に来ている。

ただし、この21人以上という区分には51人以上の企業も含まれ、10〜50名ちょうどの区分は報告書にない。

また、いずれも全国の数字であり、富山県の数字ではない。

読み取れるのは、IT人材の不足が予算の不足と同程度か、それ以上に重い課題として挙げられている、という範囲までである。

DXに取り組む企業は何を進め、何で止まっているのか

同じ調査のポイント版によると、DXに「既に取り組んでいる」または「検討している」企業は39.1%、「取組む予定なし」は31.5%だった(全国の中小企業者等1,000社)2。

取り組む、または検討する企業(n=391、複数回答)に限った具体的な取組みでは、「基幹システムの構築・導入」が26.6%、「AIの活用」が28.4%である。

この割合は取り組む企業を母数にしたもので、中小企業全体の割合ではない。

一方、取り組まない側の理由は、IPA「DX動向2026」に数字がある。

日本企業1,799社の有効回答のうち、DXに取り組んでいない従業員100人以下の企業では、「自社がDXに取組むメリットがわからない」が54.0%で、理由の中で最も多かった3。

中小企業全体や富山の数字ではない点に注意が要る。

ここから筆者が考えるのは、人手の不足とは別に、「何のために作るのか」が決まっていないことが、発注の入口で止まる原因になりうるという点である。

目的を決める仕事は、技術者がいなくても自社にしかできない。

なお、システム開発の内製と外注の割合そのものを示す数字は、筆者が確認した二つの調査には見当たらなかった。

そのため本稿は、内製率や外注率の数字に依拠せず、発注側の仕事の分け方という設計の話として書いている。

内製と受託の分担線をどこに引くか

自社に残す三つの仕事

筆者の考えでは、自社に残すべきは、解決したい業務の定義、データと契約の名義、そして完成の判断の三つである。

業務の定義を自社が持つのは、業者が現場の業務を直接は見ていないからである。

定義を業者に委ねると、業者が想像できる範囲の業務に合わせたシステムができあがる。

データと契約の名義とは、顧客名簿や受注表の置き場所、クラウドサービスやドメインの契約者を、自社の名義にしておくことを指す。

名義が業者側にあると、取引を終えるときに、データを取り戻す交渉から始めることになる。

完成の判断は、検収のときに「業務の言葉で書いた条件を満たしているか」を自社が確かめることである。

判断の基準を自社が持たなければ、業者の「できました」を確かめる手段がなくなる。

任せる仕事

実装、テスト、動作環境の構築、セキュリティ設定は、外部に任せる側に置く。

専任の担当者がいない会社が自前で実装すると、その一人が退職したり、本業で手が離せなくなったりした時点で、システムの更新が止まるためである。

保守はどちらに置くか

保守は、技術者が社内にいないなら外部に任せるのが現実的である。

ただし、「保守を任せる」ことと「中身を知らない」ことは別であり、仕様書、構成図、アカウントの一覧は自社の手元にも置いておきたい。

手元に資料がなければ、保守の担当業者を替えたいと思ったときに、引き継ぎ資料の作成から業者に頼むことになり、替えること自体が難しくなる。

発注前に自社で用意しておく五つのこと

技術の知識がなくても、次の五つは自社で用意できる。

  • 困っている作業を一つ選び、誰が、月に何回、1回あたり何分かけているかを書き出す。
  • 使っているデータ(顧客名簿、受注表など)の置き場所と、その管理者を決める。
  • 「これができたら完成」という条件を、業務の言葉で2〜3行にまとめる。
  • クラウドサービスやドメインの契約名義が自社になっているかを確認する。
  • 業者との連絡窓口を、社内で1人に決める。技術者でなくてよい。

一つ目は、要件の出発点になる。

作業時間が数字で示されていれば、業者は見積もりの範囲を絞りやすく、自社は費用に見合うかを自分で判断できる。

三つ目の完成条件は、検収の基準になる。

五つ目は、連絡先が複数あると、指示が食い違って仕様が揺れやすいために置く。

受託の業者に確かめておきたいこと

業者に頼む側として、契約の前に確かめておきたい点は三つある。

仕様書やソースコードを納品物に含むか、保守の範囲と連絡手段はどこまでか、担当者が不在のときに誰が対応するか、である。

どれも、自社が手を動かさないからこそ、書面で押さえておく必要がある。

担当者の頭の中にしかない情報は、担当者が替わった時点で失われる。

富山の中小企業にとって何を意味するか

本稿で挙げた数字は、いずれも全国の調査にもとづく数字であり、富山県に限った統計ではない。

富山県の中小企業のシステム内製率や外注率、DXの取組率を示す公的な統計は、今回の調査では確認できていない。

それでも、人が足りない会社にとって、自社に残す仕事と任せる仕事を先に決めておくことの意味は、地域によって変わらないと考えている。

担当者を一人採用して内製に切り替える道もあるが、その人が不在になったときに止まるのであれば、分担線の引き方は同じ問題として戻ってくる。

決める仕事だけを自社に残し、手を動かす仕事を任せるという分け方なら、IT担当がいなくても始められる。

まずは、困っている作業を一つ選び、誰が何分かけているかを書き出すところから始めたい。


この記事はAZALLYが執筆しました。

Footnotes

  1. 中小機構「中小企業のDX推進に関する調査(2025年)」報告書(2026年2月公表。調査期間2025年12月5日〜18日、Webアンケート、全国の中小企業者等1,000社)。課題の全体値は図表15(p.13〜14)、従業員21人以上(n=470)は図表17(p.14)。21人以上の区分は51人以上の企業を含む。 https://www.smrj.go.jp/research_case/questionnaire/fbrion0000002pjw-att/202602_DX_report.pdf (取得日: 2026-10-05) ↩

  2. 中小機構「中小企業のDX推進に関する調査(2025年)」ポイント版(2026年2月6日)。DXへの取組状況は図表2、具体的な取組みは図表4(n=391、DXに取り組む、または検討する企業)。 https://www.smrj.go.jp/research_case/questionnaire/fbrion0000002pjw-att/202602_DX_point.pdf (取得日: 2026-10-05) ↩

  3. IPA「DX動向2026」(2026年7月30日公開、調査期間2026年4月中旬〜6月中旬、日本企業1,799社の有効回答)。DXに取り組まない理由は本文図表2-4(p.9)。対象は全国の日本企業のうちDX未取組かつ従業員100人以下の企業。 https://www.ipa.go.jp/digital/chousa/dx-trend/dx-trend-2026.html (取得日: 2026-10-05) ↩