バリスタとして気づいた、勘に頼る経営の落とし穴

はじめに
カウンターに立つ日々の中で、自分の勘がどれだけ当てになるかを疑う瞬間がある。
雨が降ると客足が落ちる、そう思い込んで仕込みを減らした日に限って、店は普段より混み合っていた。
こうした感覚のズレは、筆者が富山で営むカフェでも繰り返し起きてきた。
レジに残った販売データを月末に振り返ると、客足を左右していたのは天候よりも曜日である場合が多かった。
雨だから空いている、平日だから静かだろう。
そうした思い込みは経験に裏打ちされているように見えて、実際の数字と照らすと外れていることが少なくない。
カフェという小さな商いの規模でこれだけのズレがあるなら、他の個人店でも同じことが起きているはずだ。
富山の個人店が置かれている構造的な厳しさ
富山県内の個人店を取り巻く経営環境は、楽観視できる状況にない。
2024年の富山県の後継者不在率は58.2%で、全国順位では12番目の高さにある1。
2023年の富山県企業の休廃業・解散は前年比26.5%増となり、増加率は全国で3番目の高さだった2。
同じ2023年、全国の休廃業・解散は5万9105件で前年比10%増となり、黒字廃業、つまり利益が出ているにもかかわらず店を畳んだ割合は51.9%と過去最低水準まで落ち込んだ3。
富山県に固有の黒字廃業割合を示す一次データは確認できていない。
それでも、全国的に黒字での廃業が増えているという傾向のただ中で、休廃業の増加率が全国3位まで高まっている富山県の状況は、赤字による淘汰よりも、後を継ぐ担い手そのものの不足が廃業の引き金になりやすい局面にあることをうかがわせる。
全国に目を移すと、2025年の飲食店倒産は900件で、前年を上回り過去最多を更新した4。
食材費や光熱費の高騰分を客単価に転嫁しきれない個人店ほど、体力を削られやすい構造がある。
ただし、勘に頼った経営そのものが廃業に直結するという統計は存在しない。
後継者不在や物価高が廃業の主因である以上、勘への依存を名指しで廃業原因とする一次データは見当たらず、その因果を断定するのは誠実ではない。
だからといって、勘だけに頼る判断の落とし穴を放置してよいわけでもない。
体力が残っているうちに判断の精度を底上げしておく方が、後で選べる手段は多く残る。
「勘」に頼ることの落とし穴
中小企業庁「小規模企業白書」(2022年版)は、小規模事業者の発注業務が従業員の勘と経験に基づいて行われることを、過剰在庫や非効率の一因として指摘している5。
この指摘は仕入れや発注の話に限らない。
天候や曜日といった来客数を左右する要因についても、店主の感覚は実際のデータとずれることが少なくない。
冒頭で触れた雨の日の思い込みは、その典型である。
雨だから客が減る、そう考えて仕込みを絞った日に限って忙しくなる。
そうした経験を積み重ねるうちに、客足を左右していたのは天候ではなく曜日の方だと気づいた。
感覚のズレに気づけたのは、レジに残るデータを見返したからであり、感覚だけを頼りにしていたら、そのズレに気づかないままだった。
一人で店を切り盛りする店主の中には、同じような気づきを自ら発信している例もある。
喫茶店を営む店主が、曜日と時間帯を掛け合わせて売上を確認し、感覚では見えなかった傾向をnoteで公開している6。
高価な分析ツールを使わずとも、レジに残ったデータを見返すだけで、思い込みと実際の数字のズレは見えてくる。
今日からできる小さな一歩
高価なBIツールや専任のデータ担当者は、個人店には必要ない。
まず使うのは、すでに毎日打ち込んでいるレジやPOSのデータそのものである。
- AirレジやスマレジなどのPOSから、日ごと、曜日ごと、時間帯ごとの売上データをCSVで書き出す。
- Excelのピボットテーブルに読み込み、曜日と時間帯を掛け合わせた傾向をクロス集計する。
- 数字が読み取りにくければ、無料で使えるLooker Studioに取り込み、グラフとして確認する。
Airレジとの組み合わせでLooker Studioにカフェの売上データを取り込み、時間帯別の傾向を可視化した事例も報告されている7。
この作業に必要なのは、表計算ソフトの基本操作と、月に一度、数十分だけ数字を振り返る習慣である。
大掛かりな設備投資も、AIツールの導入も要らない。
生成AIによる需要予測も報じられてはいるが、事例の多くは大手チェーン規模のものであり、個人店がすぐに使える段階には至っていないという見方が実務記事の間では共通している。
まずは手元のCSVとExcel、あるいは無料のLooker Studioから始めて、感覚と数字のズレがどこにあるかを確かめることが、次の判断につながる。
富山の中小企業にとっての問い
富山の個人店を取り巻く後継者不在や物価高は、店主一人の努力だけでは動かせない。
だが、レジに残るデータをどう読むかは、今日からでも変えられる領域である。
問うべきは、勘が正しいかどうかではない。
勘と実際の数字がどこでずれているかを、店主自身が把握しているかどうかである。
月に一度、CSVを開いて曜日別の傾向を眺める。
その数十分の習慣が、体力のあるうちに判断の精度を底上げする、小さいが着実な一歩になる。
AZALLYでは、こうした小規模店向けのデータ活用を、Excelでの集計から簡易ダッシュボードの構築まで段階的に伴走する相談を受け付けている。
この記事はAZALLYが執筆しました。
Footnotes
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帝国データバンク「富山県『後継者不在率』動向調査(2024年)」 2024年の富山県後継者不在率が58.2%で、前年に続き6割を下回りつつも全国12番目の高さである点について。 https://www.tdb.co.jp/report/economic/20241128-succession2024-toyama/ ↩
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帝国データバンク「全国企業『休廃業・解散』動向調査(2023)」 富山県の休廃業・解散が前年比26.5%増(全国3番目の高さ)である点について。 https://www.tdb.co.jp/report/economic/szdrpnkpgw24/ ↩
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帝国データバンク「企業の休廃業・解散、4年ぶり急増」 2023年の全国の休廃業・解散(5万9105件、前年比10%増)のうち黒字での廃業が51.9%と過去最低を記録した点について。 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000803.000043465.html ↩
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帝国データバンク「『飲食店』の倒産動向(2025年)」 全国の飲食店倒産件数が900件で前年を上回り過去最多を更新した点について。 https://www.tdb.co.jp/report/industry/20260113-insyokuten2025/ ↩
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中小企業庁「2022年版小規模企業白書」第2節 小規模事業者におけるデジタル化とデータ利活用 発注業務が従業員の勘と経験に基づき行われることが過剰在庫や非効率の一因とされる点について。 https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2022/shokibo/b2_3_2.html ↩
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note「【喫茶食堂kenohi】曜日×時間帯の掛け合わせで売上を確認してみました。」 個人カフェ店主が自らレジデータを分析し傾向を可視化した実例について。 https://note.com/0915hikaru/n/nfe897de82f69 ↩
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サクモフ「【活用事例】Looker Studio×Airレジでカフェの売上分析をやってみた!」 無料BIツールとPOSのCSV出力を組み合わせた分析手法について。 https://sucmof.jp/blog-lookerstudio-cafe/ ↩
