AIコーディング活用で受託開発の工数感はどう変わるか

AIコーディング活用で受託開発の工数感はどう変わるか

はじめに

AZALLYではこれまでDX相談やカフェ経営、エネルギー管理士試験対策など複数の領域で記事を発信してきたが、受託開発そのものを正面から扱った記事はまだ一本もなかった。

筆者はDXアドバイザーとして中小企業の相談に乗る一方、個人事業主として受託開発も手掛けている。

その現場で最近よく聞かれる問いが「AIコーディングツールを使えば、システム開発はどのくらい安く、速くなるのか」というものである。

答えを急ぐ前に、まず一次情報に当たって確かめておきたい。

富山の中小企業がDXに動き出している

独立行政法人中小企業基盤整備機構が2024年に全国の中小企業1,000社を対象に実施した「中小企業のDX推進に関する調査」によれば、DXに取り組んでいる、または取り組みを検討している企業は42.0%で、前回調査から10.8ポイント増加した1。

同じ調査では、DX推進上の課題として「開発人材の不足」を挙げた企業が14.6%にのぼる1。

この調査は全国1,000社を対象にしたものであり、富山県に固有のデータではない。

それでも、開発人材の不足を課題とする企業が一定割合存在するという構造は、都市部に開発会社が集積していない富山の中小企業にも当てはまりやすい。

自社に開発リソースを持たない中小企業にとって、オーダーメイドのシステム開発はこれまで「大手に発注すれば高額になり、かといって既製のパッケージソフトでは自社の業務にぴったり合わない」という板挟みになりがちだった。

AIコーディングツールの普及は、この板挟みに変化をもたらしつつあるのだろうか。

フリーランスエンジニアの市場に見えてきた差

その手がかりの一つが、フリーランスエンジニア向けエージェント「Findy Freelance」が2026年3月に発表した調査である。

同調査はフリーランスエンジニア265名を対象に実施され、AIによるコード生成率が50%以上の高活用層は、平均月単価が約84万円だったと報告している2。

低活用層との差は月あたり約10万円である2。

これは全国のフリーランス265名という限られた母集団の調査であり、受託開発の見積もり額そのものを直接示すものではない。

それでも、AIコーディングツールを使いこなせるエンジニアが市場でより高く評価されているという傾向は読み取れる。

ここで注意したいのは、この差が「AIが安く仕上げてくれるから単価が下がる」方向ではなく、逆に「AIを使いこなせる人材の付加価値が上がる」方向に出ている点である。

AIコーディングツールは、単純にコストを押し下げる道具というより、使う人間の生産性をどれだけ引き出せるかで評価が分かれる道具に近い。

「速くなった気がする」という体感への反証

その生産性についても、単純な話ではないことを示すデータがある。

AI研究機関METRが2025年に発表した「Measuring the Impact of Early-2025 AI on Experienced Open-Source Developer Productivity」は、経験豊富なオープンソース開発者16名が246件のタスクに取り組んだ無作為化比較試験である3。

この実験では、AIツールを使用した開発者は、使用しなかった場合と比べて実際には19%遅くなっていた3。

にもかかわらず、開発者自身は「20%速くなった」と体感していた3。

体感と実測のこの乖離は、AIコーディングツールを語るうえで見過ごせない。

METRの分析によれば、遅延の主因はコード生成そのものではなく、生成されたコードをレビューし、既存のコードベースに統合する工程にかかるコストだった3。

AIが出力を速く返してくれるほど、それを検証する側の負荷は減るどころか増えることがある。

つまり「AIにコードを書かせれば、その分だけ人間の工数が浮く」という単純な引き算は成り立たない。

浮いた時間の一部、あるいはそれ以上が、レビューと統合という別の工程に付け替わっているだけの場合がある。

特定の工程では確かに効果が出ている

その一方で、工程を絞れば生産性向上が確認された事例もある。

日立製作所がGitHub Copilotを開発現場に導入した事例では、コーディングや単体テストといった工程に限って、平均10〜20%、ケースによっては最大30%の生産性向上が報告されている4。

METRの実験とこの事例は、矛盾しているわけではない。

METRが計測したのは、要件の理解からレビューや統合までを含む開発プロセス全体の所要時間であり、日立の事例が対象にしたのは、コーディングと単体テストという特定工程に絞った効果である。

範囲の違う二つの数字を、そのまま並べて優劣を論じることはできない。

言い換えれば、AIコーディングツールは工程全体を自動的に短縮する魔法ではなく、要件定義やレビューにかける人間の工数を削らずに運用して初めて、特定工程での効果が生きてくる道具だということになる。

富山の中小企業にとって何を意味するか

ここまでの数字を素直に読むなら、「AIを使えば受託開発が一律に20〜30%安くなる」という結論には飛躍がある。

要件定義とレビューを怠れば、METRの実験が示したとおり、体感とは裏腹に開発は遅くなりうる。

その意味で、これは営業トークとして語れるような単純な話ではない。

それでも、開発者が要件定義とレビューにきちんと人間の工数を割り当てたうえでAIコーディングツールを使う場合に限り、コーディングと単体テストという工程では確実に効率が上がる余地がある。

これまで「カスタム開発は高くて手が出ない」と最初から選択肢の外に置いていた富山の中小企業にとって、この余地は無視できない変化である。

開発人材を自社で抱えられない中小企業ほど、外部の開発者がどう工数を配分しているかを見極める必要が出てくる。

AZALLYでは、こうした受託開発の見積もりの考え方について、個別の相談を受け付けている。


この記事はAZALLYが執筆しました。

Footnotes

  1. 独立行政法人中小企業基盤整備機構「中小企業のDX推進に関する調査」(2024年、全国1,000社対象) DXに取り組んでいる、または検討している企業が42.0%(前回比+10.8pt)、開発人材の不足を課題に挙げた企業が14.6%である点について。 https://www.smrj.go.jp/research_case/questionnaire/fbrion0000002pjw-att/202412_DX_report.pdf ↩ ↩2

  2. Findy Freelance「フリーランスエンジニア市場動向調査」(2026年3月、フリーランスエンジニア265名対象) AIコード生成率50%以上の高活用層の平均月単価が約84万円で、低活用層との差が月約10万円である点について。 https://freelance.findy-code.io/articles/market-report_202603 ↩ ↩2

  3. METR「Measuring the Impact of Early-2025 AI on Experienced Open-Source Developer Productivity」(2025年、経験豊富なOSS開発者16名・246タスクの無作為化比較試験) AIツール使用時に実際には19%遅くなったにもかかわらず、開発者自身は20%速くなったと体感していた点、および遅延の主因がレビューと統合にかかるコストである点について。 https://metr.org/blog/2025-07-10-early-2025-ai-experienced-os-dev-study/ ↩ ↩2 ↩3 ↩4

  4. 日立製作所のGitHub Copilot活用事例(Microsoft公式) コーディングや単体テストの領域で平均10〜20%、ケースにより最大30%の生産性向上が報告されている点について。 https://www.microsoft.com/ja-jp/customers/story/22781-hitachi-github ↩